1-3|茶の発祥地 ~茶は南方の嘉木なり~|第1回 茶のはじまり|紀元前|茶道の歴史
- ewatanabe1952
- 2023年1月6日
- 読了時間: 4分
更新日:7月21日
全10回
茶道の歴史

茶は、いったいどこから生まれたのか―茶のふるさとを求めて
“茶”の起源をたどる旅は、神話や正史の世界を越えて、やがて“茶樹”のふるさとをめぐる物語へとつながっていきます。
これまでの回では、“茶”が文献に登場する様子を見てきましたが今回は、その源となる“茶樹”が、いったいどの地に根を下ろしたのか――そのふるさとを探っていきます。
書物によれば茶は南方の嘉木なり

“茶”が文化として広がる以前、その根本である“茶樹”はどこから生まれたのか。
この問いに対して、明確な答えを出すことは、現代の研究者たちにとってもなお、困難な課題とされています。
とはいえ、中国・唐時代(618年~907年)の文筆家・陸羽**が記した書物『茶経**』に、その手がかりが示されています。
『茶経』は世界最古の“茶”に関する体系的な書物であり、“茶の産地”から“製法”、“道具”に至るまでが詳細に記されています。
その『茶経』の冒頭には、次のような一文が見られます。
❝❝❝
―原文― 茶者南方之嘉木矢 ―現代訳― 茶は南方の嘉木なり
❞❞❞
この一節から、“茶は中国の南方に生える良木である”とされており、“茶”の原産地が中国/南西部に位置する雲南省**であるという説が有力となっています。
雲南省・四川省・アッサム地方 ― 原産地をめぐる諸説

雲南省はメコン川**の上流にあり、ミャンマー、ラオス、ベトナムと国境を接する山岳地帯です。
ここには今日も樹齢800年を超えるとされる野生の“茶樹”が存在しており、地域全体が茶文化の源流としての気配を色濃く残しています。
一方、他にも有力な“茶樹”の原産地として以下の地域が挙げられています。
❝❝❝
・インド/北東部のアッサム地方 ・中国/西南部の四川省周辺
❞❞❞
前述の雲南省を含めたこれら3地域は、いずれも熱帯〜亜熱帯に位置し、多様な植生に恵まれています。
こうした地帯は、「東亜半月孤**」と呼ばれ、人類の農耕文化が栄えた肥沃**な「三日月地帯**」に似た地形的特徴を持ち、茶文化誕生との深い関わりが指摘されています。
茶樹の起源―謎が照らす茶の命
“茶”の発祥地については現在でも世界各地の学者により研究が続けられており、決定的な結論は出ていません。
しかし、こうした“起源の謎”もまた、“茶”がいかに深く、長い歴史の中で人々と関わりを持ってきたかを物語っているといえるでしょう。
“茶”のふるさとをめぐる旅は、確かな答えを求めるよりも、時の流れと共に育まれてきた“茶”の命にふれることにほかなりません。
今日の一碗を照らす

野生の“茶樹”が生い茂る山々も、学者の論文も、すべては「一碗」の源を照らす光です。
その光に導かれながら、今日の私たちは“茶”のはじまりに想いを馳せ、いま目の前にある一服に深い感謝を抱くことができるのではないでしょうか。
次回からは、いよいよ日本に渡った“茶”の物語へと歩を進めてまいります。
登場人物
陸羽
733年―804年|文筆家|茶専門書『茶経』の著者|
用語解説
陸羽
―りくう― 733年―804年。唐代の文筆家・茶人であり、中国における「茶聖」と称される人物。茶を生活文化として体系化し、世界初の茶書『茶経』を著した。茶の起源や製法、風味、道具に至るまでを詳述し、以後の茶文化の発展に多大な影響を与えた。
茶経
―ちゃけい― 唐代の文筆家『陸羽』によって唐代に編纂された世界最古の茶専門書。全3巻10章の構成で、茶の起源・栽培・製法・器具・点て方・飲み方などを体系的にまとめています。茶を単なる嗜好品ではなく、文化・芸術・精神修養の対象と位置づけた点で画期的であり、後の日本の茶道にも大きな影響を与えました。
雲南省
―うんなんしょう―
メコン川
―めこんがわ―
東亜半月孤
―とうあんはんげっこ― 東アジアにおける“茶樹の原産地候補”とされる地域(雲南・四川・アッサム)を含む帯状の地形を指す。農耕や植物文化の起源が多く残る場所であり、茶樹が野生のまま自生していた痕跡が見られる。
肥沃
―ひよく―
三日月地帯
―みかづきちたい―